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(投稿:by 僻地の産科医)
(週刊東洋経済 2007.4.28 p61) 東京地方裁判所は3月14日、佼成病院(東京都中野区)の小児科に勤務していた中原利郎医師(当時44)がうつ病にかかり、病院の屋上から投身自殺したのは、過労やストレスが原因の労災と認める判決を言い渡した。1999年の医師の自殺からすでに7年余りが過ぎていた。 「小児科医は僕の天職」、周囲にそう語っていた中原医師の様子が目に見えて変わってきたのは、亡くなる半年前のことだった。1ヶ月に8回もの当直(日中勤務に続く夕方5時から翌朝9時までの夜勤)を管理職の責任からこなしたこともあり、過労やストレスからうつ病に罹患した(本誌06年10月28日号で詳報) 佐村浩之裁判長はこうした遺族側の主張を全面に認め「自殺と業務には因果関係がある」として、遺族に補償給付金を支給しないとした労基署長の決定を取り消した。判決後、妻ののり子さんは「司法の良心に出会うことができた。国は医師を使い捨てにするような労働環境を改善してほしい」と訴えた。同月28日に国が控訴を断念し判決が確定した。 ところが翌29日、のり子さんら遺族が病院側を訴えた民事訴訟の判決では、東京地裁の湯川浩昭裁判長は「(中原医師の)業務過重性については認めがたい」「うつ病と業務の相当因果関係を認めることはできない」として原告側の請求を棄却。同じ証拠で180度違う判決となった。判決後の会見の中でのり子さんは「まったく予想していなかった判決でコメントできません――」と絶句。4月11日、のり子さんは「病院側の過失のみならず、労働が過重であったこと、自殺の原因が業務にあったことさえ否定する判決には到底承服できない」として、東京高裁に控訴した。 裁判の重要な争点の1つが、当直業務の過重性の有無だ。行政訴訟では加重性が認められ、民事訴訟では一転して否認された。ある内科医は「私も含めほとんどの勤務医は『当直』という名のもとで、実際には時間外業務に従事している。夜間の救急外来患者と入院患者の診療に従事するため断続的に1~3時間の仮眠しか取れない状況なのに、明日も通常勤務についている。連続32時間以上の労働はごく普通、という異常な状態にある」と現状を語る。日本病院会の調査では勤務医の9割近くが当直の翌日も通常業務に就いており日本外科学会の調査では7割の外科医が当直明けに手術をしているという。医師自身の心身の健康に加え、患者の安全のためにも勤務医の労働環境の改善は待ったなしで求められている。 判断割れた小児科医過労自殺裁判
勤務医の「当直」は留守番なのか
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