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(投稿:by 僻地の産科医)
たまには息抜きo(^-^)o..。*♡
産科や関係症例ばっかりやってると、もう嫌になってきちゃうんです。
というわけで、みつけた症例です!どうぞ。
診療のポイントは
眉間部に異物を注入する際、重篤な合併症の可能性に留意して行うべきである。だそうです!
冷や汗ファイル
美容整形手術のため自己脂肪を眉間に注入した後、
眼動脈閉塞による失明に至った30歳女性例
松本市/信州大学病院眼科 森紀和子
(日本医事新報 No.4341 2007年7月7日 p47-48)
※提示例は実例に基づき筆者が再構成したものである
A case introdudion
症例紹介
30歳女性。生来健康であった。イタリア人のような鼻になりたいと、これまでにも美容整形手術を3回受けていた。今回は4回目で、局所麻酔下に両腎部の脂肪吸引の後、胸部、鼻部、眉間部に脂肪注入を受けた。眉間部注入時突然、悪心、右眼痛、右視力低下を自覚し、同日総合病院眼科に紹介された。同院初診時、右眼視力は光覚なく(完全失明)、右眼底に広範な網膜の白色化を認め、右網膜中心動脈閉塞症の疑いでウロキナーゼ点滴を開始された。
翌日、高圧酸素療法を行うため、近くの脳神経外科病院に転院となった。しかし、視力の改善なく、発症2日目、当科外来に紹介となった。
当科初診時、鼻根部に皮膚への刺入部と思われる小さな創を認めた。右眼に上転障害と眼瞼下垂があり、右視力は光覚なしであった。左眼視力(1.O)および所見は正常であった。右眼所見では瞳孔散大、間接対光反射は正常であったが、直接対光反射は減弱していた。眼圧は右/左:6/16mmHgと右眼で低下していた。眼底所見では、網膜全体の高度の浮腫と白色化した網膜血管を認めた。蛍光眼底造影検査では網脈絡膜血管はまったく造影されず、脳血管造影では右眼動脈が起始部で完全に閉塞していた。また、通常眼動脈が閉塞していても外頸動脈枝との吻合を介して脈絡膜が淡く造影されるchoroidal blushもみられなかった。
高度の右眼動脈閉塞症の診断で、同脳神経外科病院に入院のまま、抗凝固薬、副腎皮質ステロイド薬などの投与を受けたが、視力および上転障害の改善はなかった。1週間後、自宅近くの某大学病院眼科へ転院したが、その後受診なく、経過観察はできなくなった。
A problem and measures
問題点および対策
1)問題点
眼周囲への自己脂肪注入直後に発生した視力障害について、現在までに海外で7例報告されている。それらによれば、顔面の末梢動脈は細く虚脱しやすいため、注入時に逆血を確認する際に誤認される可能性がある。誤って眼動脈の枝である鼻背動脈、眼窩上動脈、滑車上動脈などの末梢枝に高圧で注入された異物が逆行性に進んでいき、より中枢の動脈を閉塞すると考えられている。時に眼動脈、内頸動脈にまで逆行し、そこから本来の動脈圧によって各々の末梢枝である網膜中心動脈および後毛様体動脈、中大脳動脈に塞栓形成を来す機序が考えられている。実際、脂肪注入後に眼動脈閉塞と同時に中大脳動脈閉塞を来し脳梗塞を引き起こした例や、外頸動脈枝閉塞を来し皮膚壊死を起こした例もある。
本例も、自己脂肪を眉間部に注入した際、眼動脈の末梢枝に脂肪片が入り、シリンジ圧により逆行性に押し込まれ、眼動脈が起始部で閉塞し、その緒果、網膜中心動脈・毛様体動脈を含めたきわめて広範囲の閉塞が起こったものと考えられた。軽度の眼瞼下垂と上転障害は、脂肪が押し込まれた血管とは別の末梢血管である上直筋または眼瞼挙筋への栄養血管が閉塞したためと推測された。動脈硬化などに伴う眼動脈閉塞では、通常、外頸動脈系の吻合を介し、わずかながらも眼内への血流はあると考えられる。しかし、脳血管造影でそれを示すchoroidal blushがなく、また蛍光眼底造影にて右眼底では網膜、脈絡膜動脈も含めまったく造影されなかった。以上より、本例は右眼動脈起始部の単なる閉塞ではなく、網膜中心動脈、上直筋枝、鼻背動脈などの血管内脂肪塞栓と考えられた。血管内脂肪塞栓のため顔部の外頸動脈系からの吻合による血液供給もなく、眼球全体に高度な虚血が生じていた。
2)対策
脂肪だけでなく、副腎皮質ステロイド薬、コラーゲンなどの眉間部への局注により失明を来した報告があり、同様の機序が考えられている。眉間部に異物を注入する際には、緩徐に、極カ圧をかけずに行うことが重要である。また、このような重篤な合併症の可能性を含めた十分なインフォームドコンセントを行う必要がある。
A point of medical examination
診療のポイント
眉間部に異物を注入する際、重篤な合併症の可能性に留意して行うべきである。
文献
1)森紀和子,太田浩一,永野咲子,他;日眼会誌111:22.2007.
眼科の一例報告の結語って、こういうのが多い気がします(--;;;
投稿情報: 峰村健司 | 2007年8 月24日 (金) 00:01
でも、これの場合は「気をつけて~」としか言いようがないかな!と。
だって世界で7例ですもんo(^-^)o!!!
投稿情報: 僻地の産科医 | 2007年8 月24日 (金) 00:21
地元?千葉大学の産婦人科医局(でいいのでしょうか?医療に従事していないのでよく分からないのです)のページが面白かったです。
いまさらな感があるかもしれませんが、URLを貼り付けておきます♪
http://www.m.chiba-u.ac.jp/class/gyne/column/07_001.html
投稿情報: ひみつ | 2007年8 月24日 (金) 01:38
いつもありがとうございますo(^-^)o..。*♡
おもしろいというか、やたら前向きですね!!!
いまの悲惨さとのギャップがすごくって、笑ってしまいます~。
資料室でリンクさせていただきます!!
ありがとうございます。
投稿情報: 僻地の産科医 | 2007年8 月24日 (金) 08:19
可能性がないとは言いませんが,すごい確率でしか起こらないような合併症でしょうね.
顔面なんて動脈狙ってもなかなか穿刺できないのに...
眼窩上動脈は頭皮を支配しているのに眼動脈(つまり内頸動脈系)の枝なんですね.知りませんでした.顔面の皮膚は通常外頸動脈系支配ですから,そんなこと起こりえないと思ってしまいました.
ところで「右眼に上転障害と眼瞼下垂」は末梢性ということで説明できるのでしょうか?これは動眼神経(III)の領域ですよね.
投稿情報: Level3 | 2007年8 月24日 (金) 12:32
Level 3さんと同様で最初読み始めた時は外頸動脈の側副血行路が豊富ですから顎動脈から眼動脈への側副血行路に入ったのか?と思いましたが、ちゃんと血管撮影までしていらっしゃるんで納得しました。
「右眼に上転障害と眼瞼下垂」これは末梢性としか説明が出来ません。中枢性ですと動眼神経核周辺の脳梗塞でしょうが、そうであれば完全麻痺でしょう。
投稿情報: Taichan | 2007年8 月24日 (金) 23:47
Taichan先生,コメントありがとうございました.
もし中枢性ですとbasilar artery系になりますから,ICAからそこまで流れることは通常ありえない(Wills ringを考慮しても血流の方向からして)と思います.また,眼輪筋のうち外転筋と上斜筋以外はすべて動顔神経支配ですから部分的な障害の説明は困難ですから...
結局末梢性に支配神経が虚血になったと考えるのが妥当なんでしょうね.
投稿情報: Level3 | 2007年8 月26日 (日) 12:55