(関連文献→) VBAC 目次
VBACを選択するかどうかについて資料がほしい、
という方がいらっしゃったのでいくつかあげてみますo(^-^)o ..。*♡
ただ施設ごとの人手や安全性というものがありますし、
日本は相対的にアメリカに比べて医療現場の人手が少なく、
施設が「できない」といえば「できない」ものであることを納得して下さいね。
危険性は過大評価するものではなく、ただ本当におこった場合でも
納得できるかどうか、が「危険性を知っていたか」ということになります。
なにかの参考になればうれしいです。ではどうぞ!
VBACは是か非か
冨松拓治 村田雄二
(産婦人科の実際 vol.52 No.2 2003 p149-155)
アメリカにおいて,Vaginal birth after cesarean section(VBAC)は現在の時点でも帝王切開率を下げるもっとも現実的で有効な方法と考えられている。しかし,近年VBACの安全性に関するエビデンスが蓄積されるにしたがって,VBACに対する考え方は以前の積極性がやや薄れてきている感がある。VBACを施行するかについては,それぞれの患者ごとに十分にVBACを試みる臨床的に有意な危険性と有益性を説明したうえで,患者の意志によって決められなければならない。個々の施設の条件を加味したうえで,VBACは是か非かを決定するのは患者自身である。
はじめに
アメリカにおいて,Vaginal birth after cesarean section (VBAC)は現在の時点でも帝王切開率を下げるもっとも現実的で有効な方法と考えられている。また,既往帝王切開の妊婦に経産分娩の選択肢(VBAC)を提示するべきであるというコンセンサスにまったく変わりはない。
しかし, 近年VBACに関するエビデンスが蓄積されるにしたがって,さまざまな問題点がクローズアップされつつある。ここでは,それぞれの施設の緊急帝王切開の体制が確立していることを前提に,また,アメリカでの歴史と現状について述べる。
I.アメリカにあいてVBACが提唱されるにいたった経緯
帝王切開率の推移
アメリカにおける帝王切開率は,1965年には4.5%であったものが1988年には24.7%となった1)(表1)(1988年当時の日本での帝王切開率は約7%)。帝王切開率の上昇にともなう医療費の急増は大きな問題となったが,この期間にアメリカにおける周産期死亡率は劇的に減少し,帝王切開がその周産期死亡率の低下に少なからず寄与したと考えられている。しかし,同様の周産期死亡率の低下が他の先進諸国では帝王切開率の上昇をともなわずにみられており,医療のみならずそれをとりまくさまざまな社会的要因も帝王切開率の上昇に大きな影響をおよぼしていると考えられている。
以下に帝王切開率の上昇の要因と考えられるものを述べる。
①高齢妊娠の増加
母体の高年齢は帝王切開の高危険群である。
②骨盤位に対する経膣分娩率の低下
アメリカおける骨盤位経膣分娩率は1980年の32%から,1990年には16%にまで低下した。
③1970年代からのfetal heart rate monitoringの導入
これによって,fetal distress(胎児心音低下)の適応での帝王切開が急増した。
④医療訴訟の増加
医療訴訟の増加は産科医療に多大な影響をおよぼしたとされている。産科医療はdefensiveになり,帝王切開の適応は拡大の一途をたどった。1985年には「もし,妊婦が帝王切開を望んだら,断ることはできるのか?」“Prophylactic cesarean section at term?”という論文が,New England Journal of Medicine誌上に発表されるにいたった2)。
⑤反復帝王切開のルーチン化
1981年での反復帝王切開率は97%に達した。
⑥operative vaginal delivery(経膣分娩)の比率が低下したこと。
⑦巨大児の増加。
などが原因であろうと考えられている。
II.帝王切開のおもな適応
帝王切開のおもな適応は,反復帝王切開,分娩停止,骨盤位,胎児心拍異常である。1978年から1984年までの6年間に帝王切開率は44%上昇したが,その上昇のうち47%が反復帝王切開によるものであった。1988年には帝王切開の36.3%を反復帝王切開が占めるにいたった1)。
III.VBACの歴史
1916年にCraganらが“Ones a section, always a section"を提唱して以来,長い間,帝王切開後の経膣分娩は子宮破裂のリスクのために禁忌と考えられていた。実際に,当時一般に行われていた古典的帝王切開後の経膣分娩では約10%もの高率に子宮破裂が発生し,さらにその1/3は陣痛発来以前に起きると報告されていた。また,古典的帝王切開後の子宮破裂は児だけではなく母体にも生命にかかわるような重大な影響をきたした。しかし,子宮体下部横切開による帝王切開が一般化するにつれ,子宮体下部横切開による帝王切開後の子宮破裂の頻度は低く,そのほとんどが分娩中に起こり,母体には生命に関わるような重大な合併症はほとんど起きないことが経験的に明らかになってきた。
1980年NIHは反復帝王切開の減少を目的とし,子宮体下部横切開による帝王切開後の経膣分娩を推進するConsensus statementを発表した。また1980年代前半からのVBACの高い成功率や,安全性についての報告3)があいついでなされたのを受けて,VBAC率は急速に上昇した。健康保険会社もこのVBACの普及に多大な役割を果たしたと考えられている。健康保険会社は,医療費抑制の面よりVBACを奨励し,患者だけではなく医師にもその利益について教育した。いくつかの保険会社はVBACを行わない反復帝王切開の医療費については支払を留保するという事態も発生した。1990年にUnited States Public Health Serviceは帝王切開率を2000年には15%にまで減少させ,VBAC率を35%にすることを目標として掲げた4)。
その結果,帝王切開率は,緩やかに減少に転じ,1996年には20.7%にまで減少し,VBAC率は28.3%にまで上昇した。しかし,近年,VBACが提唱されてから20年がたち,蓄積されたエビデンスに基づいてVBACの安全性をもう一度考え直す機運が高まってきている。アメリカにおいて右肩下がりであった帝王切開率も,1996年を境に上昇に転じ,VBAC率も低下しつつある5〕(図1)。
Ⅳ.VBACの安全性についての近年の報告
VBACの利点については現在までに数多くの報告があり,産褥熱や,創感染,輸血,入院の期間を減少させるなどの効果が一般に認められているが今回詳細は割愛する。ここでは,近年になって報告されたVBACの安全性についての報告を紹介する。
子宮破裂がVBACにおける,もっとも重篤な合併症である。この発生率についてはいくつかの大規模な報告がなされてきた。Caugheyらは,子宮体下部横切開後のVBACにおける子宮破裂率は約0.6~0.8%と報告している。ただし,帝王切開の既往が2回以上になるとその発生率は1.5~3.7%と上昇するとされている6)。
Washinton州の20,000人以上のVBAC症例を対象とした子宮破裂の発生率についての報告では,自然陣痛発来後で0.52%,プロスタグランディンを使用しない分娩誘発(オキシトシン使用)でO.77%であったが,この2群で有意差は認められなかった。しかし,プロスタグランディンを使用した分娩誘発では2.45%と有意に子宮破裂の発生率が上昇した。91例の子宮破裂において母体死亡は認められなかったが,5例(5.5%)の児がintrapartum asphyxiaによって死亡した7)。
子宮破裂の最初の徴候はfetal heart rate monitoring上に現れることが多く,子宮破裂症例の91%に遅発一過性徐脈あるいは変動一過性徐脈が,64%にprolonged decelerationが発生すると報告されている。そのほかの症状として性器出血が11%に,下腹部痛が13%にみとめられた。また,prolonged decelerationが発生してから娩出までの時間が18分以上の場合と,子宮外に児が脱出しているような場合は周産期死亡率および罹患率が高い傾向がみられた8)。
一般に,経膣分娩は帝王切開に比較して,母体合併症に関する限り,安全と考えられている。しかし,イスラエルにおける1984年から1992年までのすべての分娩を検討した報告では,予定帝王切開による母体死亡率(10万分娩につき2.8)は経膣分娩における母体死亡率(10万分娩につき3.6)とは有意差はなく,緊急帝王切開において母体死亡率(10万分娩につき30)が有意に高いという結果であった。
つまり,帝王切開であっても予定帝王切開であれば母体死亡率に関しては経膣分娩と変わらず,緊急帝王切開の危険性を再確認させる報告であり,VBACが緊急帝王切開になった場合,予定帝王切開に比べ危険性が高くなることが推察される9)。
Ⅴ.VBACと医療費について
経膣分娩は帝王切開に較べて,長期,短期の母体罹患率とも低いと考えられており,医療費も当然であるが低く,前述のようにVBACの普及には医療保険会杜も大きな役割を果たしてきた。しかし,近年になってVBACの医療費抑制に対する効果についても,疑問を投げかける報告がなされている。
Long Beach Memorial Hospitalでの報告によれば,反復帝王切開のコストは1386ドルであったのに対し,VBACが成功した場合のコストは1212ドルと約150ドルのコスト削減となった。しかし,VBACが不成功となり帝王切開が行われると,2065ドルものコストがかかった。つまり,VBACによってコストが削減できるか否かはVBACの成功率に依存しており,成功率が高ければコストは低くなり,成功率が低くなればコストは高くなる。彼らは,VBACの成功率が60%を下回ればコストの面からはVBACの利点はないと報告10)している。
また,Clarkらは子宮破裂により発生する新生児の障害にかかるコストを考慮にいれれば,VBACの医療経済的な利点はないと報告1)している。
Ⅵ.VBACと医療訴訟
VBACと医療訴訟の問題は,大部分がInformed consentにまつわる問題といってよい。医療訴訟の場では弁護士は起こりうるすべての危険を事前に説明するべきであると主張するが,どれくらいの情報が実際のInformed consentにとって必要であるかは非常にむずかしい問題である。もし,医師が妊娠や分娩によって起こり得るすべての危険について説明すれば,何人もの妊婦が人工妊娠中絶し,何人もの妊婦が帝王切開を希望するであろう。このような,Informed consentは妊婦にいたずらに不安をあおり,精神的苦痛を与えるだけである。
本当の意味での,Informed consentは患者に臨床的に有意なリスク,利益,そして選択肢を公平な視点で提示することである。すべての,患者が同じ選択をするような,Informed consentはおそらくbiasがかかっており,正しいInformed consentがなされたとは考えられない。
VBACにおけるInformed consentの際には,子宮破裂のリスクが上昇するが,その頻度は1%以下であることは十分に説明しなければならない。そして,いったん子宮破裂が起これば母児の予後は悪化することも説明しなければならない。また,VBACが不成功に終われば,緊急帝王切開となり,予定帝王切開に比べ危険性が高いことも説明すべきである。また,VBACを選択しなかった場合の予定帝王切開がかならずしも危険がないとはいえないということも説明したほうがよいと思われる。実際にアメリカでは,母体に予定帝王切開にともなう合併症が発生した場合に「VBACのリスクについては説明を受けたが,予定帝王切開についてのリスクについて説明されず,予定帝王切開を強要された」という訴訟が増えてきているからである。
一般的に,VBACにかぎらずInformed consentは,患者と対話の上でなされることがほとんどであるが,医療訴訟の観点からは,その過程を文書に残すことが大切である。医療の専門用語になれていない一般の妊婦は,説明内容を忘れたとか,理解していなかったと主張することがあり,そのことが後に問題となることがある。当科ではInformed consentに用いる用紙を2枚複写(図2)として,1枚を妊婦に渡し,疑問点があればいつでも対応するという方法をとっている。以下に,当科でVBACの対象者に対して用いている説明用紙を一例として掲載する。
Ⅶ.VBACは是か非か
これは,それぞれの患者ごとに十分にVBACを試みる臨床的に有意な危険性と有益性を説明したうえで,患者の意志によって決められなければならない。VBACは是か非かを決定するのは患者自身である。
ACOGは1999年にエビデンスに基づいた以下の勧告をした12〕。
1.十分な科学的なエビデンスに基づいた勧告(LevelA)
①ほとんどの麗往帝王切開妊婦(子宮体下部横切開)はVBACの適応であり,VBACにつき十分に説明を受け,VBACの選択を提示されるべきである。
②VBACにおいて,硬膜外麻酔の使用は禁忌ではない。
③古典的帝王切開(創が子宮底にいたる)はVBACの禁忌である。
2.いくつかのエビデンスに基づいた勧告(LevelB)
①2回の帝王切開歴があって,VBACを希望していれば,VBACを行ってよいかもしれない。しかし,子宮破裂の頻度が上昇することを十分に説明をされるべきである。
②オキシトシンやプロスタグランデインジンの使用中は,監視を十分にするべきである。
③子宮体下部縦切開(切開創が子宮底におよばない)はVBACの対象となる。
3.エキスパートの意見,総意(LevelC)
①子宮破裂は重大な結果をまねくので,VBACは緊急帝王切開に迅速に対応できる施設で行われるべきである。
②十分にリスクとベネフィットを個々の患者後ごとに説明したうえで,最終的な意志決定は患者と医師によってなされるべきである。
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