過去の記事ですが、結構おもしろいものをみつけました。 ぽち→
たぶん、パスワードなどがなくても見られるページだと思います。
「医療と医業」 日本産婦人科医会
というわけで、いってみます。
結論をみると、
産む方にとって、正常な妊娠、出産で約58万円の費用が必要
しかし医院運営には一人当たり約69万円の費用が必要
ということで、結局のところ(この数字には人件費も入っていますから)
なるべく入院患者さんのいない空き時間を作らない(人件費の問題で)
とか同じ時間に分娩経過中の方が何人もいる!
という状態でようやく利益分をだしている、ということになります。
つまり、自分ひとりだけお産をみていてもらおうと思ったら、もっともっと一分娩80万円あたりにしないと利益が出ない(しかもこの額には、ある一定頻度でなされるであろう、訴訟されるリスクの分の金額が入っていませんね。イマドキ弁護士費用の算定は必要かもしれません)ということでしょうか。計算甘いかも。
結構、面白い記事でしたので。どうぞ。
一分娩・入院に必要な費用(1) 日本産婦人科医会報(平成17年02月・03月)
「健やか親子21」では“妊娠・出産の安全性と快適さの確保”のために、妊産婦死亡を半減させる目標を設定した。安全性の確保には施設、設備、人的配置、対応能力等々多々あるが、改善改良が必要な場合には費用がかかる。現在の分娩費用は適切か? 現在の状況を検討し、将来に役立てたい。
今回、一分娩・入院期間中の原価を検討し算出してみた。
調査施設の概要
当佐藤病院は都心より100km北、関東平野北端に位置する高崎市で産科婦人科を専門とする単科病院である。病床数84床、分娩総数年間約1,600、入院患者の70%が産科患者である。施設は昭和初期からの外来棟を含めた建て増し施設であったため、平成9年に全面新築した。以後8年間順調に推移しているがそれなりの借財がある。
基礎調査
- 1時間あたりの人件費:人件費の算出にあたっては、都内A 病院、I 総合病院産婦人科及び当院の3病院の平成15年度における平均単価を用いた。
時間あたりの人件費単価は各職種の年間総支給額の総額を人数で除し、さらに12カ月と1カ月172時間で除し基準単価を算出した。
(各職種年間総支給額の総額)÷(人数)÷(12カ月)÷(172時間)
総支給額には基本給、時間外・各職手当、家族・住宅手当等に賞与も含む年間総支給額である。
この基準単価に平均法定福利費、福利厚生費を加え、各職種の時間あたりの人件費単価、時給とした。 - 分娩所要時間:入院分娩所要時間を初産婦109例、経産婦96例、計205例を集計し、平均14時間1分と算出した。
新生児は一昼夜経過観察の後母児同室としている。
聴覚検査、代謝異常検査等は後日新生児室にて施行。
諸費用
労務人件費についてはあくまでも出産患者1人に対して直接関与した医師、コ・メディカルそれぞれの労務作業の所要時間を集計したものであって、その間の施設側が支払った人件費ではない。
直接経費は分娩入院中の検査をはじめ経費、消耗品等である。
間接経費はIとIIに分けたが後述する。
- 人件費:まず、分娩室・新生児室・病棟・その他の部門の4部門に分類し、医師、助産師、看護師、看護補助者、薬剤師、検査技師、栄養士・調理師、医事職員の8職種についてそれぞれの項目(約20~30項目調査シートを作成)に対する所要時間調査を正常分娩の患者に行い、4部門ですべて調査し得た有効55例を集計した。
- 労務人件費の算出:分娩室、新生児室、病棟、その他の部門の各職種による直接関与した労務時間の平均時間数を算出した。
入院診察は医師による診察及び説明時間の平均である。分娩は全て医師が取り上げている。
医師の指示のもとに助産師、看護師、准看護師が各種観察、援助を行っている。
正常分娩のみに限ったために医師の関与時間は少ない。
入院より分娩終了後病室移室までの平均14時間1分に対し直接関与した時間は、医師→1時間23分助産師-->5時間32分看護師-->7時間56分准看護師-->1時間13分。関与時間に時給を積し、それぞれを加え分娩室での人件費を算出。
新生児室における約一昼夜の監視、処置、診察および入院中の聴覚検査(AABR)、代謝異常検査採血等も集計し計算、人件費を算出。
病棟は平均6日間の直接関与時間を調べ集計し計算、直接人件費を算出。その他の部門(薬剤、検査、調理、医事)も同様に算出した。これらを加算し入院から退院までの直接労務費を算出した。
(分娩室)+(新生児室)+(病棟)+(その他の部門) --> ¥192.612 (1)
これはあくまでも直接関与した労務人件費であって、同時間帯勤務の医師、当直医師、三交代勤務その他の助産・ 看護師、他事務職等々諸々の人件費は加味されていない。 - 直接経費:主に分娩時、新生児室、病棟にて使用するディスポ製品や薬剤、周辺機器、食材費用等である。高価な医療機器については、
購入価格÷耐用年数÷分娩数
で計算した(分娩数が少なければ1分娩に対する単価が高くなる)。
直接経費 --> \54,800 (2) - 間接経費(平成15年度費用):
I.当院における病院経営、運用上の必要経費(電気・ガス・水道料、リネン・ルームクリーニング、広告・接待・通信・車両、保険・公租公課等)。
II.当院に必要な年間経費(償却資産、固定負債、地代、損害保険等)であり、この項は各病院施設により変動するものと考える。上記で得たそれぞれの経費総計金額を、年間365日で除し、1日あたりの金額に0.7(入院外来比7:3)を積し、1日あたりの病室経費金額を算出、これを1日平均入院数(54人;平成15年度)でさらに除し、入院患者1人に対する間接経費I、IIを算出した。これに入院平均日数7日を掛けた。
間接経費( I + II ) --> \113,938 (3)
1分娩・入院にかかる費用
人件費+直接経費+間接経費 ((1)+(2)+(3)) --> \361,350 (4)
人件費は直接関与した時間の和の労務人件費であり、病院施設が支出したすべての人件費から算出されたものではない。正常分娩を対象としたもので医師の関与時間が少ない。
1分娩入院にかかる費用が算出されたが、病院施設が今回計算されない人件費を支払い安定した運営を行ってゆくためには、それなりの経費または利益が必要である。一応、諸経費を10%加算した場合 --> \397,485 (5) となる。
1人の赤ちゃんを産むためには(初診から退院まで)
妊娠初期から産褥1カ月までの費用を検討してみる。妊娠初期健診から分娩入院までの諸検査、厚労省指針による健診回数、必要検査の費用を医会が定期的に行っている全国調査を引用し算出してみた。諸項目における費用は、全国支部における平成15年度の最多値(平均値ではない)を
用いた。妊娠中にかかる費用+必要検査 --> \162,500 (6)
現在、各種産前産後教育が行われている。当院で行っている産前教育およびその費用について周産期医学 Vol.34 No.12 2004年に報告した。各種指導費用 --> 約\20,000 (7)
今回算出された人件費は1分娩に対する直接労務費であってすべての人件費から算出されたものではない。よって40万円で計算してみる。(5)+(6)+(7)
出産費用(400,000)+妊娠中健診費用(162,500)+指導費用(20,000)
正常な妊娠、出産で約58万円の費用が必要になる。
出産の安全確保と快適性のために: 監視、介護、介助、処置、看護等を再検討し労務時間を集計して前述の時給(平成15年度)で算出した。
検討後の直接労務人件費 --> \299,516 (1)'
前述の直接経費、間接経費( I + II )を加えると --> \468,254 前述と同様10%の経費を加えると約51万円(5)'が算出された。これに外来分を加えると (5)'+(6) で正常な妊娠、出産では約69万円の費用が必要になる。
考察
今回、当院における正常1分娩・入院に対する直接労務時間を分単位で調査し集計した。これに基礎調査で算出した時給を積し直接労務人件費を算出した。この人件費に直接経費および間接経費 I・II を加え1分娩・入院費を算出した。正常分娩のみを対象としたため医師の関与時間が少ない。正常産褥婦であるため病棟看護師の関与時間も少ない。
人件費は直接関与した時間の和の労務人件費であり、病院施設が支出したすべての人件費から算出されたものではない。
妊娠・出産の安全と快適さを確保するために再検討後の人件費は約10万円増であるが、これを達成するためには助産師、看護師を倍増せねばならない。コ・メディカルの倍増、特に助産師の倍増は非常に困難である。
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