(関連記事→) 医療訴訟の現状 目次
お友達のsuzan先生より下記の記事を送っていただきました(>▽<)!!!
すっごくいい文章だったので、転載させていただきます..。*♡
suzan先生の『みんなに読んでほしい、と思って。
毎日新聞社、こういう情報も流せるのにな~。』という感想に同感です!!
ぜひぜひ読んでくださいませ!!!MMJ6月号より!http://www.mainichi.co.jp/syuppan/mmj/
弁護士が語る医療の法律処方箋ー第3回 医師の刑事責任
「医療に刑法を合わせるのが理想」
(The Mainichi Medical Jouenal June 2007 Vol.3 No.6 p512-513)
法律を医療に合わせるべき
「社会的共通資本」の提唱者である宇沢弘文東京大学名誉教授が、2007年4月6日、第27回日本医学会総会で特別講演をされ、その中で「経済に医療を合わせるのでなく、医療に経済を合わせること」を強調された。経済学者である宇沢氏は、その著書「社会的共通資本」(岩波新書)で「医療を経済に合わせるのでなく、経済を医療に合わせるのが、社会的共通資本としての医療を考えるときの基本的視点である。このような視点に立つとき、他の条件にして等しければ、国民医療費の割合が高ければ高いほど望ましいという結論が導き出されるのである。(170ページ)」と述べておられる。
この考え方は経済だけでなく、法律についても応用されるべきであろう。つまり、「医療を法律に合わせるのでなく、法律を医療に合わせる」べきなのである。法律の中でもその筆頭は、特に刑法であると思う。
医療過誤での逮捕拘留は不当
近年、医療過誤を理由とし業務上過失致死罪(刑法第211条第1項前段)で医師を逮捕拘留する事例が相次いだ。慈恵医大青戸病院の泌尿器科医、福島県立大野病院の産科医などが、特にマスコミで大きく取り上げられ、それら医師の社会的信用などが決定的に傷つけられた。このままでは、医療界に萎縮的・保身的傾向がもっと強まり、完全な医療崩壊の現象が生じてしまうかもしれない。
自動車事故を典型とする業務上過失致死罪を医療事故にも適用するという発想は、まさに「医療を法律(特に、刑法)に合わせた」典型であろう。そうでなく「法律(特に、刑法)を医療に合わせた」視点に立てば、つまり、医療の特質に鑑みたなら、業務上過失致死罪の適用も、医師の逮捕拘留もあってはならない。
医療者の善意と勇気で危険性減少・消滅
法律の世界ではよく、医療事故と自動車事故が並び称せられる。それらの共通点として挙げられるのが、危険責任(または危険性)という概念だ。しかし、これは誤った対比である。
自動車運転はもともと人の生命を侵す危険性が高い自発的ないとなみであるから、その危険性の発現として交通事故により人を死亡させたなら、刑事事件に問われるのは当然であろう。しかし、医療は異なる。治療を求めて来院する患者には疾病があり、その疾病はそれ自体が生命に対する危険性であり、治療を施さなければ疾病という危険性の発現として死亡してしまうかもしれない。つまり、医療は患者がもともと有していた危険性を減少・消滅させる試みであり、その試みは医療者の善意と勇気でなされている。運転しなければ死亡の危険性を生じさせない自動車運転と、危険性の意味が異なっているのは明瞭であろう。
このような医療者の試みに対して、これが奏功しなかったら刑事責任を追及するというのでは、刑事責任のおそれから回避するため、医療は萎縮し保身に走らざるを得ない。
医療の不確実性と制約性という特質
医療が他の諸分野と異なるのは、危険性の側面だけではない。医療は人間とその生命という本質的に不確実な対象を扱うのであり、自動車のような予見確実な物体を扱うものとは異なっている。また、社会的共通資本の1つである医療は、特に、昨今の医療費抑制政策の下で、人的にも予算的にも厳しい制約にさらされ、その限定された環境の中でいとなまざるを得ない。本来、医療の質と安全性を向上させ、できる限り死亡などの危険な結果発現を回避するためには「国民医療費の割合が高ければ高いほど望ましい」のである。
業務上過失致死罪の不適用
通常の刑法の運用からすると、「医療を刑法に合わせ」て、医師を業務上過失致死罪(刑法第211条第1項前段)で処罰していた。そのため、医療にも業務上過失致死罪を適用して当然、というのが、司法界一般の感覚である。しかしながら、「刑法を医療に合わせる」べきであることから、すでに述べた医療の諸特質を踏まえ、医療には業務上過失致死罪を適用すべきではない。理想としては、医療に固有の特別刑法を創り、一般刑法の適用を排除すべきである。仮に適用を肯定するとしても、せいぜい「重大な過失」があった場合に限定すべきであろう。せめて、刑法を改正して「医師および看護師が診療に際して患者を死傷させた場合は、刑法第211条第1項前段の規定は適用しない」との定めを設け、重過失致死罪(刑法第211条第1項後段)の適用に限定すべきである。百歩譲っても警察・検察は刑法改正と同等な刑事司法上の運用に改めるべきであろう。
井上 清成
弁護士、医療法務弁護士グループ代表
東京大学法学部卒。1986年弁護士登録。
病院顧問、病院代理人を務めるかたわら、医療法務に関する講演会、個別病院の研修会、論文執筆などの活動をしている
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