メディカル・トリビューンより。
新生児の口唇裂と口蓋裂
妊娠中の母親の喫煙が原因に
Medical Tribune 2007年5月17日 p38
〔米メリーランド州ベセズダ〕米国立衛生研究所(NIH)の一部門である米国立歯科・頭蓋顔面研究所(NIDCR)から助成を受けた研究者らは,喫煙する妊婦の胎児のDNAが,たばこ煙の解毒に関与するGSTT1遺伝子の2コピーを欠損した場合,新生児が口唇裂と口蓋裂を持って生まれる可能性がかなり高まることを見出した。研究者らは,欧州の新生児の約4分の1とアジアの新生児の60%がGSTT1遺伝子の2コピーを保有していないと見ている。American Journal of Human Genetics(2007;80:76-90)に発表されたデータによると,妊婦がたばこを毎日15本以上吸うと,GSTT1欠損胎児の口唇・口蓋裂を発生するリスクが20倍近く増加するという。妊娠中に喫煙する女性は,世界全体で毎年約1,200万人である。
家族に精神的・経済的負担
研究責任者でアイオワ大学(アイオワ州アイオワシテイー)生物学・疫学のJeffrey Mumay博士は,挙児を希望して母親が禁煙の動機を高めたいカップルは,GSTT1の状態を判定する検査を受けるべきだと指摘している。胎児は母親と父親の双方からこの遺伝子を受け継ぐので,この検査により発育中の胎児が,たばこ煙
を無毒化するGSTT1遺伝子を保有しているかどうかを同定することができる。
同博士は「ただし,GSTT1遺伝子が存在するという検査結果が得られても,他の遺伝的二環境的因子が関与している可能性があるので,口唇・口蓋裂のリスクが全く消失するわけではい。一方,遺伝子がないという検査結果は,母親にとって自身の健康と子供のために禁煙せざるをえない理由になるだろう」と述べ
ている。
米国では,新生児750例中1例が非症侯性の口唇裂と口蓋裂の両方,あるいはいずれか一方を有している。両方とも矯正可能であるが,通常は複数の手術を要する。家族はその問,大きな精神的・経済的苦難を味わい,小児はしばしば複雑な歯科治療や言語療法など他の多くの治療を必要とする。
デンマークのチームと共同研究
Murray博士らは過去数年間で,喫煙する妊婦が胎児に口唇・口蓋裂の発生リスクを与えているという強力な統計学的データを集めてきた。このデータから関連する2つの疑問が生じた。筆頭研究者で現在NIHの米国立環境衛生科学研究所(NIEHS)に所属するMinShi博士は「母親の遺伝子変異が,本人のたばこ煙や副産物の代謝に影響を与え,それが発生変化をもたらして胎児の口唇・口蓋裂の原因となるのだろうか。あるいは胎児の遺伝子変異そのものが,たばこ煙を代謝する能力を喪失し,口唇・口蓋裂の原因になるのだろうか」と述べている。
この答を求めて,Murray博士らはデンマークの研究者らと共同で,大規模で複雑かつこの種のものとしてはおそらく初めての国際研究を行った。研究グループは,まず興味ある16遺伝子のリストを作成した。これら遺伝子は,危険な化学物質の無毒
化に関与する体内の各種経路につながる蛋白質をコードしている。
共同研究者で南デンマーク大学(デンマーク・オーゼンセ)先天性奇形予防センターのKaare Christensen博士は「われわれは,以前のエビデンスにおいて,ヒトからヒトヘのたばこ煙の毒性に直接関与する,あるいは一般的な毒性管理における重要な因子であることが証明されている遺伝子を選んだ」と説明。「これら遺伝子の正確なDNA構造は,人によりかなり異なる傾向がある。われわれは,これらの変異がたばこ煙の有害物質を分解する個人の能力に障害を与えるかどうかを調べたかった」と述べている。
同博士らは,米国とデンマークの計5,OOOの口唇・口蓋裂小児,両親,同胞の既存データベースを検討し,DNAサンプルを分析した。このなかには口唇・口蓋裂小児由来の1,244のDNAサンプルも含まれていた。重要マークとアイオワ州の家族は,2つの異なる人口において別々の機会に独立して確認されたことである。
胚発生の初期に裂が発生さらに,研究グループはNIDCRが資金を提供したCOGENEプロジェクト(発達の異なる段階で発現される遺伝子の総合的なオンライン・データベース)に自由にアクセスした。
COGENE設立者の1人でワシントン大学(ミズーリ州セントルイス)遺伝学のMichael Lovett博士と密接な協力を行ううち,オンライン・データベースが特に有用であることが判明した。というのは,胚発生初期の5~12週間に口唇・口蓋裂が発生するからである。研究グループは,これら興味ある遺伝子がこの重要な期間に発現するだけでなく,胎児の頭蓋顔面構造にスイッチが入ることを確認しなければならなかった。さらに,遺伝子がこの2つの基準に適合するなら,その後のデータが遺伝子一環境相互作用を示すはずだと期待した。
今回の分析結果から,母親が与える有害な環境曝露が胎児の遺伝子変異により大きく増幅され,口唇・口蓋裂をもたらすことが確認された。これは,口唇・口蓋裂における遺伝子一環境相互作用を分子レベルで初めて証明するものである。またこのデータは,口唇・口蓋裂につながる研究方針や,この過程を解明
し,予防につなげるための重要な情報を提示している。
解毒に関与する酵素を欠損
Mumy博士らはデータを順に追いながら,.特にGSTT遺伝子の口唇・口蓋裂に対する関与に注目した。この遺伝子は,体内にある約20種類のグルタチオンS一トランスフェラーゼ酵素(GST)の1つをコードしている。これら酵素は集合的に薬剤や工業化学薬品の化学的変質をはじめ,たばこ煙の主要な成分である多環芳香族炭水化物の解毒まで,一般的な解毒過程で重要な役割を果たしている。
同博士らは,妊婦が喫煙していて,胎児がGSTT1酵素を欠損する
と,口唇・口蓋裂の新生児が生まれるリスクがかなり高いことを見出した。この知見は,アイオワ州でもデンマークでも当てはまり,COGENEデータベースではこの遺伝子は発生中の頭蓋顔面構造で高く発現していた。
同博士は「通常は,GSTT1を欠損しても,口唇と口蓋は正常に形成されるかもしれない。しかし,たばこ煙に含まれる化学物質が正常な構造の発生を阻害すると,この遺伝子を欠損する胎児は明らかに不利な立場に置かれる」と述べている。なお,同博士らは遺伝解析を継続しており,「この家族コホートについて約350の遺伝子のデータが得られた。これらを解析するのはかなり複雑だが,今後数か月以内に非常に興味深いデータが得られると思う」と付け加えている。
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