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日本産婦人科医会報5月号より
支部からの声・福島県
【会員数】
18年4月の総会時点で186名と前年から4名減、うち50歳以上が118名、77歳以上の会費免除会員も21名おり、老齢化がすすんでいます。女性会員は、22名ですが、こちらは18名が49歳以下と今後も増える傾向にあります。
【医師不足は深刻】
福島県は、広く(全国2番目)中通り、会津、浜通りと大きく三地域に別れていますが、それぞれの中核病院から東北大の医師引き揚げがはじまり、厳しい状況です。福島医大からの派遣でなんとかしのいでいますが、医局員の数も少なく大変です。ちなみに昨年の入局者は、4名でしたが、これでも大健闘の部類でした(東北の6大学すべてで8名だったとのこと)。ご多分にもれず病院の産婦人科閉鎖も続出しています。
【周産期医療システム】
福島医大に総合周産期母子医療センターが設けられ、前述した各地域に地域医療センター、協力施設が配置されていますが、地域間でNICUなど受け入れ能力にかなりの差があり、長距離の母体・新生児搬送も珍しくありません。
【子宮がん検診】
福島県保健衛生協会とタイアップし、各種検診の中でも最も古い歴史をもち、システムは整備さています。ただ一昨年に福島市が取り入れた隔年検診が、ほぼ全県に広がり定着しつつあるのは残念です。今年度は、精密検診にHPV検査を取り入れる予定です。また、20代の検診を増やすべく啓発活動に力を入れております。
【性教育】
福島県は、10代の人工妊娠中絶率が平成16年度全国2位、17年度4位と不名誉な記録を持ち、また同世代の性感染症罹患率も高く、思春期保健への取り組みが重要と考えています。そこで思春期保健委員会では、委員、各地区の性教育担当者を、主に高校に派遣し性教育の講演を行っており、さらに対象を中学校に広げつつあります。平成16年度には、高校生、専門学校生を対象にした「10代生徒への性に関するアンケート」調査を行い、各方面への提言の資料にしています。また18年度は、「中学生に対するアンケート」を実施しました。
【県立大野病院問題】
昨年2月に起きた加藤医師の逮捕は、産婦人科のみならず、全国の医師に衝撃を与えました。1月にいよいよ公判が始まりましたが、加藤先生の無罪を勝ち取るべく、会貝」丸となって応援していくつもりです。また全国の先生方から、激励、応援の声が寄せられ、沢山のご支援をいただきました。この誌面をお借りして厚く御礼申し上げます。
さて。特集が前回と同じく、
「母体搬送や新生児搬送で苦労したこと(2)」
■助産院からの搬送
東京ではマスコミの影響からか助産院での分娩が増えている。それに伴い助産院からの搬送も増えてきた。搬送の理由は様々である。切迫早産、妊娠高血圧症侯群、遷延分娩など分娩前の症例もあれば、弛緩出血、膣壁裂傷、新生児呼吸障害など分娩後の症例もある。
送られてくる患者さんたちに共通しているのは、「助産院での分娩や分娩後の生活がかなわない」という失望感に満ちていることだ。そしてその矛先は病院において医療者に向けられる。内診台に上がってもらっただけで舌打ちされたと病院の助産師が嘆く。
出血性ショックのため救急車で運び込まれて、やっと止血したとたんに助産院に戻りたいと詰め寄られることも日常茶飯事である。出血の原因は膣鏡をかければすぐに分かる膣壁裂傷だったり、卵膜がごっそり残っているための弛緩出血だったり、搬送に付き添ってくる助産師たちは「産後出血」とひとくくりにすることも多く、自宅分娩の場合など出血量もはっきりしない。医療機関で分娩していれば輸血が必要になることもなかっただろうに……という言葉を飲み込みながら入院の必要性を説明するがなかなか納得されない。受け手である助産院側が今日は受け入れられないから病院にいた方が良いと言ったところでやっと承諾するが、今度は助産院や自宅並の静かな環境を要求してくる。重症患者なので血圧や尿量のモニターや同伴してきた新生児のケアが必要なため、時問ごとの訪室を行う旨を説明するが不承不承である。
そもそも助産院は医療介入が必要な症例は扱えない旨を分娩前にちゃんと説明してあるのか疑問に思うことが多い。外来診療で医学的にハイリスクな助産院分娩希望者に医療施設での分娩を勧めても納得しないばかりか医療機関に対して不信感を抱くばかりである。血小板減少やRh不適合妊娠、顕微授精で妊娠した40歳代の初産婦など本来ならば病院で扱われるべき症例が、助産院分娩を強く希望し助産院で受け入れられている。たまたま病院に運ばれてきたので分かったが氷山の一角かもしれない。
それにしても彼女たちの助産院信仰の強さは一体どこから生じるのか?小児科医師によると、助産院分娩を試みた結果新生児に異常が起きて搬送された場合でも、助産院での分娩を後悔しないお母さんがほとんどらしい。最後まで自己責任で全うしてくれればよいのであるが、病院に来たとたん人間は医療過誤でしか死なないと思うのか医療不信のかたまりである。マスコミは助産院分娩の長所だけではなくデメリットに関しても正しく報道し、助産院での分娩希望者にそれなりの覚悟を促してほしいと思う今日この頃である。
■自転車操業
当院の概要から説明しますと病床数は128床で、大人87床、新生児41床(NICU9床)です。常勤医師は産婦人科医16名、小児科医3名、麻酔科医1名で、地域周産期母子医療センターの指定を受けています。当院の分娩数は年間約2,800例で市街に関連産婦人科診療所が2施設あり、年間分娩数を合計すると約5,O00例を超えています。NICUを新設したのは3年前で、それ以後この2施設からだけではなく県外からハイリスク妊娠や新生児の搬送を受け入れられる)状況になりました。
しかし、熊本県内にはNICUを有する施設は当院を含めて3施設しかなく、県内のすべての異常新生児を受け入れられる状況にはなく、県外の施設にお願いすることもあります。開設以来当院のNICUは常に満床で、6台ある人工呼吸器も超未熟児に何台かは使用されており、時にはすべての呼吸器がふさがっていることもあります。ですから最も苦慮するところは保育器や人工呼吸器の確保です。保育器がすべて使用されている状況に新しく入院があった場合、状態のいい子が押し出されます。いわゆる「自転車操業」状態が時々発生します。自前の入院児は何とか押し込んでいますが、外部からどうしても受け入れできないこともあり他施設にはご迷惑をかけています。また総合病院
ではないので、外科的処置を必要とするような重症の合併症があれば治療ができる施設に搬送する側となっています。去年は心臓手術を必要とする1,700gの新生児をヘリコプターが使用できずに新幹線で他県へ搬送し、術後また新幹線で戻ってきたこともありました。以前は母体や新生児を収容可能な施設に搬送を依頼する立場でしたが、受け入れる立場になってみて搬送する側や搬送される側の苦労が十分に理解できるようになりまし
た。搬送する側は必要に迫られて搬送先を探しているのですから、できる限りそれに応えるようにしています。ただ自転車操業は医師ばかりでなく、新生児センターのスタッフにもかなりの負担をかけており、母体搬送によるリスクの高い分娩に立ち会う助産師にも精神的、肉体的負担がかかっているようです。しかし、県外搬送された場合の患者サイドの負担もかなりのものだと思います。ですから、なだめすかしてでもスタッフと共に自転車操業を続けていくつもりです。
■患者情報の正確な通達がなされなかった例
患者紹介や母体搬送を依頼する際、情報を止確に伝えることは基本中の基本である。しかし、妊娠週数が1~2週間違っているなど、小さな情報違いは時々あるので注意が必要である。実際に経験した誤りの1例を紹介したい。なお、文中の氏名や生年月日、経産回数は架空のものである。
母体搬送の依頼を受ける際、内容によっては、直ちに手術室へ運び帝王切開を施行する必要がある。その場合、患者到着後の時問を少しでも短縮するために、搬送元から患者住所、氏名、生年月日などの情報をあらかじめ得ておき、患者IDと診療録を作成して待機する。
ある深夜の依頼。「常位胎盤早期剥離だが、うちでは夜の帝切ができないので受けてほしい」聴取した状況から一刻を争うと判断し、いつものとおり患者情報を聴取し、「A山B子さん、S46.4.22生」として患者IDを発行、カルテ1式を用意し、到着を待った。
到着した患者の紹介状にも「A山B子さんS46.4.22生」と書かれていた。所見から直ちに早剥と診断し、手術室に運ぼうとした。ところが、急ぎ署名をもらった手術同意書には「A山C子、S48.4.12生」と書かれているではないか。これではカルテと照合ができず、近年、本人確誘が厳しくなった手術室に入室すらできない。しかし緊急を要するため、十分に本人確認を行った上で手術を施行した、さらに「2回経産、合併症なし」ではなく「4回経産、C型肝炎キャリア」であった。患者到着時に、「A山B子さんですね?」と呼称しなかったわれわれにも反省点はあるが、夜間の当直医が一人大急ぎで患者を診察し、夫婦へ事態の説明をしなければならない緊迫した状況のなか、氏名すら誤って伝えられていると疑ってかかれ、と言う方がどだい無理な話である。また、もし到着時直ちに問違いが判明していても、タイムロスに大差はなかったであろう。
救急システム運用の上で重要なことは、各医療機関の協力と連携であり、信頼関係である。これを崩さぬよう、正しい情報伝達を心掛けたいものである。
■母体搬送で困ったこと
われわれの施設は平成17年10月にMFICU6床、NICU9床へと改修し、平成18年1月に総合周産期母子医療センターに指定された。産科、新生児科がそれぞれ36床、40床となり、センターとして運用が開始された。その結果、母体搬送に関しては、依頼の約80%にとどまってはいるものの、これまでの年間約80件から目標としたほぼ140件を受け入ることが可能になった。しかし、麻酔科、手術室など他の部門も包括したユニットとして運用されているわけではないので、様々な内部の問題を抱えている状況に変わりはない。
母体搬送で困ったことは、
①満床の問題、
②適応の問題、
③情報不足の問題、
④搬送前に受けてきたICの問題
⑤搬送もどきの外来紹介などである。
依頼に応じられなかった症例をみると、産科側、新生児側のいずれかが満床であった場合が多い。搬送症例の管理期間が長くなれば産科側の回転が滞り、これらの症例が分娩となり、搬送症例の管理期問が短ければ新生児側が満床になる。新生児の救命卒が高く管理期間が長期化している傾向も相侯って、いかんともしがたい状況が生じる。さらに、多胎管理妊婦の増加も満床傾向に拍車をかけている。
依頼する側からすれば、「どうしてこの1例が引き受けられないのか」と思われるであろうことは自明である。「分かりました」の一言が耳に残る。
次は生育限界との戦いである。個人的には、妊娠24週5日あたりと考えているが、この辺の線引きが難しい。相談されれば引き受けたくなるのが人情であるが、無理をすれば診療が破綻する。本来、救命を目的としているので、何とかこの週数を超えて妊娠継続が可能な症例を受け入れたいものである。時として、母体搬送前に予後に関する見通しなどを説明されてくる患者がいる。余計なことはしないでいただきたい。搬送後の不信感などを聞いていると、状況をありのままに説明して送ってくるのが一番良いようである。
搬送を依頼された時と到着した時では「話が違う」ことが多々ある。手術室に直行しなければならない症例もあるし、搬送が今でなくてもよかったのにと思う症例もある。
事前の情報しだいでは、最悪の事態を想定して待機している。特に夜間から早朝にかけては、送る側・受け取る側の双方が大変な時間帯であるから、診断を的確につけて連絡してほしい(無理なことは承知で、単なる希望と理解いただきたい)。
このような「困ったこと」はいくらでも挙げられるが、できる限り母体搬送の需要には応えていきたいと思っているので、依頼の相談に遠慮は無用である。
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