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[週刊東洋経済]医療特集を読む
東京日和@元勤務医の日々 2007.04.24
http://blog.m3.com/TL/20070424/1
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ニッポンの医者 病院 診療所
(週刊東洋経済 2007.4.28 p40-45)
10年後、新しく外科医になる医師がゼロになる――。
4月上旬、日本外科学会が新規登録者数の推移から導き出した予測だ。
この20年、同会会員は減退の一途をたどる。勤務医不足の代名詞的存在となっている産婦人科や小児科医も減少に歯止めがかからない。
「埼玉県の市立病院では5人いた産婦人科医がゼロに」「北海道の市立病院では12人いた内科医が半年でゼロに」……。勤務医不足は各地で社会問題化している。
きっかけとされるのが2004年開始の新臨床研修制度だ。医学部卒業後は大学の医局に入って研修するスタイルが一変。研修医の半数が市中病院に流出。人手不足に陥った大学医局が自治体病院に派遣していた医師を引き揚げた結果が「今」だ。
不足を認めない国 一部“例外”は認めたが…
残された勤務医を激務が襲う。厚生労働省の「医師需給に係る医師の勤務状況調査」によれば、勤務医の週労働時間は63・3時間で。月当たりの残業時間は100時間に迫り「過労死ライン」にも抵触する。
厚労省が昨年7月に公表した「医師の需給に関する検討会報告書」は、現在約27万人いる医師数が毎年約3500~4000人ずつ増えているのを理由に、「2022年に需要と供給が均衡し、マクロ的には必要な医師数は供給される」という姿勢をあくまで崩さない。それでも「地域別・診療科別の医師の偏在は必ずしも是正の方向にあるとはいえない」と認めるには至った。
報告書が出た翌月、厚労省、文部省、総務省は「新医師確保総合対策」を策定。人口10万人対医師数が200未満の10県(宮城を除く東北5県と新潟、山形、長野、岐阜、三重)に限り、年間最大10人・最長10年の間、医師養成数を増やすことが認められた。「1980年代からの厳格な医師数管理政策から大きく踏み出した」と、これを評価する声もある。ただ、医学部1年生が一人前になるには、早くて10年かかる。今この瞬間にも全国から発せられるSOSに直接応えるものではない。
昨年11月末、厚労省は都道府県別に、病院の医師充足状況を明らかにした(下図)。最下位の青森県は非常勤医でカバーしても43%、岩手県も55%と、東北以北で医師不足が鮮明だ。他方、東京や大阪は90%代をキープ。西日本各県も軒並み高い適合率で、こうした地域は一見、医師不足とは無縁ともとれる。
統計数値では見えない医師不足の惨状
「医師急減に伴い今年1月には救急指定を返上した。小児科医がいなくなった4月からは分娩も中止した。町内に外科系の医師は一人もいない。このままでは人の住めない町になりかねない」。西の小京都として名高い島根県津和野町。松浦秀信副町長は将来不安を吐露する。
津和野町には厚生農業協同組合連合会(厚生連)の津和野共存病院と日原共存病院がある。日原は農協の医療事業である厚生連発祥の地だ。
従来は津和野が急性期、日原は慢性期とすみ分けてきた。しかし、3年前には津和野だけで12人いた常勤医が今年4月には5人まで減少、病院収益も大幅に悪化した。町は二つの病院を運営する石西厚生連に06年度8700万円を助成。10月には日原を診療所・老人保健施設に転換し、ベッドは津和野に集約する方針だ。
1年前には津和野に整形外科2人、外科1人の常勤医がいたが、今はゼロ。高齢化が進む津和野町では65歳以上人口比率は約4割。高齢者はちょっとした転倒でも重傷となるケースが多く、町に1人も常勤外科医がいない現状には不安が多い。
「4月から小児科も非常勤医師。常勤医のときは当直日以外でも救急出動を頼んだりできたが、今後それを望むのは無理」(病院関係者)で、人数以上にパワーが落ちている。
小児救急やお産は同じ2次医療圏(保健医療施策の基本単位)内の益田市で対応することになるが、車で1時間かかるうえ「益田市も産科は医師不足で危機的状況」(関係者)にある。
「常勤医が10人以上いた時代は医師確保活動に出掛けることもできたが、今は今は毎日の外来、入院患者の診察で手いっぱい。当直も中2日で行っており、なかなか病院を離れられない」津和野町共存病院の須山信夫院長は歯がゆい思いだ。須山院長は島根医科大学(現・島根大学医学部の元医局長。医師の派遣を差配していた立場だけに、「医局も医局員が当時の半分で、とても派遣できないとわかるだけに頼みづらい」。
ある看護師は、地域医療の希望を抱いて津和野に就職したが、救急指定の返上で「救急車のサイレンを聞いても何もできない歯がゆさに耐え切れず、病院を離れた」と言う。
地方間格差より深刻な「地域内格差」の存在
実は、島根県の医師充足状況は84・5%と全国平均を超える。人口10万人対医師数(04年)も253と全国平均の212をはるかに超え、医師養成増の対象県とはならなかった。津和野との温度差は何なのか。
実は、過疎化が進む島根は、医師不足対策にいち早く着手。県立中央病院の木村清志医師をトップに「医師確保対策室」を立ち上げた。室長以下8人の専任要員を配し、全国を奔走している。医師充足状況は同室の努力の結果だが、「県庁所在地と中山間地の地域偏在が大きすぎる」(石倉利康・県企画幹)。人口10万人対医師数を詳しく見ると、松江市では276、島根大学病院のある出雲市ではなんと447だが、津和野町は173。「1日3本ある特急に乗っても松江まで3時間。移動だけでも1日掛かり」(松浦氏)の津和野には、県の頑張りも届かない。
域内格差は島根だけの話ではない。南国の風情漂つ和歌山県新宮市。大阪から4時聞、名古屋から3時間かかる“陸の孤島”だ。地域の中核病院である新宮市立医療センター(一般300床)は今年2月、産婦人科医不足のため、10月からの分娩の予約を休止すると発表した。奈良県立医大の医局から医師2人の派遣を受けていたが、昨年、奈良県の町立大淀病院で搬送を断られた妊婦が死亡した問題を受け、奈良県が「総合周産期母子医療センター」の整備に着手。県外の病院に派遣している産科医を引き揚げ、今年3月末に医療センター2人のうち1人が大学に帰った。今は暫定的に1人の産科医が派遣されるが、10月以降は1人態勢となるため、やむなく分娩を中止。救急のみ対応する。センターが扱ってきた年400件の分娩は、2次医療圏内の他の病院で対応できる件数では到底なく、市ではまずは里帰り出産の自粛を呼びかけている。
新宮市立医療センターでは、03年に9人いた内科医も昨年、5人に減少。昨年9月から内科の初診は開業医の紹介状持参者に限ることにした。「診療の入り口である内科の制限は、病院収益的に大きなマイナス。他方で医師の給与や研修旅費は増額した。それは病院の存続のために必要なこと」(医療センターの杉山泰生事務長)。内科医はその後7人まで回復したが、診療制隈は続ける。
和歌山県も医師充足状況は88%と高水準にある。人口10万人対医師数は248で、全国平均を上回る。ところが島根県と同様に、和歌山市を含む和歌山医療圏だけが338と飛び抜けて高く、新宮医療圏は201と平均割れだ。
首都でも二極化鮮明 自治体はお土産合戦
東京も例外ではなく、都立病院でも二極化が進む。「精神科の松沢病院、神経科の神経病院などの世界的病院には大学医局も医師を派遣するが、他方、地域の中核だが特徴を出しにくい病院からは引き揚げる」(都病院経営本部・大野あゆみ副参事)。実際、豊島病院、墨東病院ではすでに分娩制隈がかけられ、隣の大塚病院で「負担が急増し、制限をかけざるをえない水準まできている」(同)。
自治体も手をこまねいているわけではない。医師紹介会社のメディカル・プリンシプル社が行う医学生向けの研修指定病院紹介セミナーでは、個別の病院と並んで多くの自治体がブースを出して勧誘に努めている。「3~4年前とは状況が一変した。以前は自治体はお付き合い的な参加で、会場が閉まる1時間も前から撤収を始めていた。ところが今は終了時刻が過ぎても帰ろうとしない。特産物を配ったりして、さながら物産展」(メ社)という熱の入れようだ。
地域、診療科の医師の偏在を語る上でもう一つ欠かせないのが、訴訟リスクの増大だ。日本病院会の調査では、勤務医の4人に1人が医事紛争を経験していることが明らかとなった。著書「医療崩壊」が話題を呼んだ虎の門病院泌尿器科部長の小松秀樹医師は、「癒着胎盤だった妊婦が大量出血のために死亡した『福島県立大野病院事件』は、多くの医師は不可抗力によるものだと考えているが、産婦人科医が逮捕された。民事と刑事では医療従事者に与えるダメージがまるで違う。過失犯罪を医療に適用すると医療の崩壊を助長することになる」と警鐘を鳴らす。
診療所はもう聖域ではない
病院の"崩壊"が現実化する一方で、医療の片翼を担う診療所の数は増え続け、10万施設に迫る。
「開業医っていいな。当直もないし、金持ちそうでいいな」。まさかこんな幼稚な発想だとは思いたくない。激務に耐えかね、泣く泣く病院離れた医師も多いだろう。
その診療所も、ここ数回の診療報酬改定が容赦なく狙い撃つ。前回の06年改定では聖域ともいわれた初診料が初めて引き下げられ、次回改定では、休日や夜間の診療点数を上げる代わりに初再診料の再度ダウンという話もちらつく。
初再診料は検査でも医療処置でもなく、いわば医師の純粋な“診療"の対価だ。診療室で向かい合い、経過を聞いて触診するのに高い医療費はいらないというのが国の考えだが、開業医はたまらない。「“医は仁術”を否定されたようなもの」「小児科では育児に悩む母親への診察時間が長くなっている。時代に逆行する流れだ」。折しも、厚労省が後期高齢者医療のあり方を検討するなかで“人頭払い制”導入の意見が浮上。開業医の将来不安はピークに達している。
人頭払いとは、かかりつけの診療所に登録した住民の人数に応じて診療報酬を支払う方式だ。患者はどこでもどんな不調でも、まずは登録診療所で受診しないとならない。保険証一枚あれば全国どこでも医療が受けられる、今のフリーアクセス制とは対極に位置する。
病院と診療所 コインの裏と表
「もしもし、警察です。死亡者がおたくの診察券を持っていたのですが……」。神奈川県内のある診療所では、昨年6月から9人の患者が相次いで孤独死を遂げた。
67歳男性、糖尿病と心臓病と脳梗塞を併発し変死体で発見。64歳男性、重度の心臓病で死亡の10日後発見。69歳男性、慢性呼吸不全で死亡を友人が発見……。死因はさまざまだが、いずれもアパートで独り住まいする男性だった。高齢者や生活困窮者が多い地域だが、死亡した多くは生活保護を受ける一歩手前で年金受給年齢にはあと少し、という人たちだ。
警察は病歴確認のために、受診歴がある診療所に連絡してくる。診療所の院長は「われわれも看護師もショックを受けている。『あのとき入院させておけばよかった』と……」。しかし、彼らの思いはかなわない。「地域の入院ベッドは満杯」(院長)。診療所がある2次医療圏は病床過剰地域であり、今後もベッドは増やせない。85年の医療法改正でベッドの総量規制がかかって数年で起きた“駆け込み増床”の名残だ。“2~3日ちょっと経過をみるための入院"は
現実的に不可能だ。
埼玉県内のある急性期病院の院長は、救急車がつくとまず患者の年齢を確認する。「82才で足が痛いというような患者は断るしかない」。「先生、なんで診てくれないんですか」という罵声を浴びながら、救急車を見送ることしかできない。
急性期病院は重病人の治療に特化し、入院日数の短縮に努めよ。手厚い看護が要らない高齢者の療養病床は38万床を15万床に減らせ。その代わり、介護施設や在宅医療が老人を支えてくれ――。
国の描く政策は必ずしもお門違いなものではない。しかしあまりにも極端で性急な二極化政策が医療現場と患者を混乱に追いやっている。
療養病床から引き取った老婆。自宅で見る覚悟でも、目の前で苦しまれれば「一日でも入院させてあげたい」と思うのが子の心だが、もうそんな病院はない、ということになりかねない。在宅医療の受け皿も十分ではない。茨城県にある中堅病院の院長は「われわれ民間の中小病院こそ、医療の担い手にふさわしい」と言うが、国はこうした病院の役割を軽視しているようにも見える。
ニッポンのものづくりが象徴するように、中小企業が弱い産業は脆弱である。はたりて医療だけ例外たりえるだろうか。
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